めゆ工房について

黄八丈めゆ工房について


黄八丈めゆ工房のルーツは、江戸幕府へ黄八丈を貢納していた染屋です。
古くから「染織は中之郷」と評されるその地で、初代:山下 与惣右エ門が創業しました。

通常、黄八丈は「染」と「織」の二分業制で行われますが、後に【東京都指定無形文化財】技術保持者に認定される 五代目:山下 め由が、「染」と「織」を分業せずに 一貫して黄八丈を作り始めました。
これを機に、1917年「黄八丈めゆ工房」が誕生しました。

それから今まで百年あまり、黄八丈めゆ工房では「染」と「織」の一貫体制を維持1しています。
また、手から手へと教え継がれてきた技法や伝統を大切に継承するべく、黄八丈を作る工程は職人たちによる手作業で進められています。

  1. すべての商品の「染」は当工房で手作業で行っておりますが、着物を除く一部商品の「織」は当工房提携の職人による場合がございます。 ↩︎
初代:山下 与惣右エ門 〜 かまどの前にて
山下 め由 〜 染めた糸をご覧になる常陸宮さまと

古来から変わらない「染」

「シンプルなデザインは美しい」と言われますが、黄八丈には黄・樺・黒の3色しかありません。
それ故に、染色には誤魔化しがきかず、古来より伝わる黄八丈の艶やかさを生み出すためには、作業の合理化や化学染料の使用などは望ましくありません。自然由来の材料を惜しまず使うことが肝要です。
黄八丈めゆ工房では、八丈島に自生する草木を使って、昔ながらの工程・技法そのままに絹糸を染めあげています。

– 黄染 –

黄染にはコブナグサ(カリヤス)を用います。
コブナグサを煮た液を絹糸に掛け、翌朝まで浸けておき、絞った後に夕方まで干す。これを5回から、多い時には20回ほど繰り返します。
仕上げの媒染には、榊と椿の生の葉を焼いて作った灰を水に浸し、その上澄の灰汁を使います。
灰汁を掛けた絹糸は、目も覚めるような山吹色へ 鮮やかに染まります。

– 樺染 –

樺染にはタブノキ(マダミ)の皮を用います。生皮でなければ色が出ないので、使う時その都度で木を切ります。
タブノキを煮た液に絹糸を浸け、空気に触れないように翌朝まで置く。これを十数回繰り返し、木灰汁で媒染します。
この工程を何度か繰り返し、色が整うまで染めあげます。

– 黒染 –

黒染には数年乾燥させたスジダイ(シイ)の皮を用い、泥染の工程が入ります。
スジダイを煮た液に十数回あまり絹糸を浸けた後、鉄分を多く含んだ沼田の泥に浸けます。そして、しばらく寝かした後に、よくすすぎ 固く絞って干します。
発色具合によって、これらの工程を繰り返し、より黒く染めあげます。


時代にあわせた「彩」

黄八丈めゆ工房では、昔ながらの技法はそのままに、3色(黄・樺・黒)の濃淡を調整したり、色を組み合わせたり、様々な工夫・研究を行っています。
その結果、中間色や、桜色、海松色、栗皮色など、多彩な黄八丈が誕生しました。
時代にあった彩を求めて、私たちの試行錯誤は続きます。


伝統と創意工夫の融合「織」

黄八丈の伝統的な「織」の技法は、先染めした絹糸の平織りまたは綾織りで、緯糸(よこいと)の打ち込みには手投げ杼(てなげひ)を用います。
強い打ち込みで織るのが黄八丈の伝統で、それによって3代保つと言われる布に仕上がります。
黄八丈めゆ工房では、百年前と変わらず今日も力強い機織りの音が響いています。

江戸時代の頃、黄八丈のデザインは縞や格子だけでしたが、当工房 代々の職人たちによる創意工夫の結晶で、いくつもの新しいアイデアが生まれました。
縞や格子といった伝統的なデザインと 時代にあったアイデアを融合して、新しい黄八丈を表現し続けています。


最高級品種の「絹糸」

黄八丈めゆ工房では、着物用の絹糸にはブランドシルクと言われる最高級品質の「新小石丸」を使っています。
「新小石丸」は、皇后御親蚕に用いられる原蚕種「小石丸」の姉妹品種であり、次のような特徴があります。

・糸はとても繊細だが、強くしなやか
・けば立ちが少なく、染が艶やかに映える
・1つの繭から取れる糸は少なく、貴重

江戸幕府への貢納布であった頃の黄八丈の風合いを表現するために、良質な絹糸を用いることに妥協はしません。


黄八丈めゆ工房は、黄八丈の「染」と「織」の美しさを 守り育てて145年になります。
これからも、守るべき伝統と技法は変えずに、それでいて時代にあわせたデザインや柔軟さを追い求め続け、みなさまに愛される黄八丈を作ってまいります。